第8章 酸化スズ

静岡大学工学部 奥谷昌之

はじめに
 デジタル放送の本格化を目前に、液晶ディスプレイ(LCD)やプラズマディスプレイ(PDP)等の平面型表示素子用として、可視光領域で高い透過率を示し、かつ高い電気伝導性を有する透明導電膜の需要が増加の一途にある。透明導電膜として使用されている材料の主な特性を表1に示す。金属薄膜としては、金(Au)や銀(Ag)等、電気伝導性に優れる金属が用いられてきた。しかしこれら金属膜はプラズマ波長が短いために可視光吸収が大きく、また機械的強度や化学的安定性に劣る。このため、これらの金属を屈折率の高い酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO2)或いは酸化チタン(TiO2)等の透明な誘電体で挟んで上層膜/金属膜/下地膜のサンドイッチ構造を形成するのが一般的である。この構造により、屈折率や膜厚を適切にコントロールして膜強度の劣る金属膜を保護すると同時に、反射を低減して可視光透過率を高めることができる。非酸化物系金属化合物薄膜として窒化物が挙げられる。特にTiNは低抵抗で機械的強度に優れ、かつ可視・近赤外線を反射することから、熱線反射ガラスにも利用されている。これに対し、金属酸化物膜は可視光透過率が高く、機械的強度や化学的安定性を十分備えた材料である。また、含有酸素量を変化させたり、不純物元素を固溶させて導電性をコントロールすることができる。このため、一般に透明導電膜とは、金属酸化物を指すことが多い。代表的な酸化物として、酸化インジウム(In2O3)、酸化スズ、酸化亜鉛等が挙げられる。これらの酸化物以外にも、上記酸化物と酸化カドミウム(CdO)や酸化ガリウム(Ga2O3)を組み合わせた多元系金属酸化物の研究も進められている。
 本章では、これらの透明導電膜の中でも古くから知られる酸化スズに焦点をあて、その形成法や電気的・光学的特性について紹介する。

材料設計を中心とした最新透明導電膜動向と製膜方法, 第8章 酸化スズ(奥谷昌之), pp.213 (2005)(株)情報機構 ISBN4-901677-33-0

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