第1章 5節 スプレー熱分解法

静岡大学工学部 奥谷昌之

はじめに
 スプレー熱分解(Spray Pyrolysis Deposition; SPD)法は、パイロゾル法と呼ばれる手法と本質的に同じであり、加熱基板上に噴霧された液相から固相が析出し、薄膜として堆積する製膜プロセスである。すなわち、霧吹きの原理に基づいて原料溶液を加熱された基板に向けて噴霧すると、溶媒の蒸発とそれに続く溶質の熱分解・化学反応により薄膜が形成される。原料には金属無機塩の水又はアルコール溶液、或いは有機金属化合物や有機酸塩の有機溶剤系溶液が用いられる。原料化合物は液相中でイオン、オリゴマー、クラスター、あるいはゾルとして存在するため、複雑な化合物や固溶体の形成とともに、薄膜の構成粒子の形状や微細構造の制御も可能である。SPD法はガラス表面の透明導電膜形成へ適用されることで早くから注目されてきたが、他にも金属酸化物、カルコゲナイド化合物などの機能性薄膜の形成が報告されている。著者の研究グループでは原料溶液の霧化のために圧縮空気を利用し、また噴霧を間欠的に行うことで基板温度の低下を抑えて効率よく薄膜形成を行い、これまでSnO2、SnS、Sn2OS、Cu2O、CuInS2及び(Ni, Zn)Fe2O4等の化合物半導体薄膜の形成を報告している。さらに、最近では色素増感太陽電池やUVセンサーに利用できるTiO2薄膜の作製にも取り組んでいる。ここでは酸化インジウム(ITO)透明導電膜の形成を例に、スプレー熱分解(SPD)法について紹介する。

材料設計を中心とした最新透明導電膜動向と製膜方法, 第1章 透明導電膜の作成方法とその特性, 第5節 スプレー熱分解法(奥谷昌之), pp.56 (2005)(株)情報機構 ISBN4-901677-33-0

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